オペラを観る時間は、私にとって日常から少し離れて、他者の人生を通して自分の心を見つめる時間です。
オペラの登場人物は実に多くの「葛藤」を抱えながら生きています。『運命の力』も、自分の気持ちと、家族や社会から求められるものとの間で揺れ動く人間の葛藤を描いた作品でした。
考えてみれば、私たちの日常も、規模こそ違っても葛藤の連続です。
「仕事を頑張りたい。でも休みたい」
「期待に応えたい。でも苦しい」
「相手を理解したい。でも納得できない」
メンタルヘルスというと、「ストレスを減らす」「気持ちを前向きにする」といったことが語られがちです。けれど、人の心はそれほど単純ではありません。相反する二つの気持ちを同時に抱えることもありますし、簡単には答えの出ない問題を抱えながら生きていかなければならないこともあります。
オペラの登場人物たちは、そんな人間の矛盾や弱さ、怒り、悲しみ、愛情を、音楽とともに私たちの目の前に差し出してくれます。そして観客である私たちは、登場人物の人生を見つめながら、知らず知らずのうちに自分自身の感情とも向き合うことになります。
喜びも悲しみも、怒りも迷いも、「自分の中にはこんな気持ちがある」と気づき、それを抱えながら生きていくことも、心の健康の大切な一部です。
